最後のお風呂


小規模多機能のサービスを
利用しながら
在宅で暮らしている老夫婦がいます。

おばあちゃんの認知症
どんどん階段を上り、
今や てっぺん近く。
会話でのやり取りは すでに
難しい状況です。

おばあちゃんよりも6つ年上、
85歳のおじいちゃんは
可愛らしい笑顔でニコニコ笑う
おばあちゃんのことが
愛おしくて仕方ない様子です。


おばあちゃんが便秘をしていた日
心配な様子でガーデンに
送り出したおじいちゃん。
その後、看護師の対応により
排便があったことをお知らせすると
電話口で泣いて喜んでいた
エピソードからも
愛情の深さが伺えます。


そんなおじいちゃんが、ある朝
おばあちゃんのお迎えに伺った
スタッフに言ったそうです。

「昨日の夜、ガーデンさんから
帰ってきた後に ○子を風呂に
入れたんですよ。
家でゆず湯に入れてやりたくてね。
大変でした… お湯に入るのに30分
お湯から出すのに30分。
何を言っても通じませんからね。
クタクタになりましたよ」



f:id:healthy-service:20220110192214j:plain


おばあちゃんには週に2回
ガーデンで入浴してもらっています。


声かけを理解することが出来ない
おばあちゃんは
洋服を脱がそうとすると…着ようとし
着せようとすると…脱ごうとし
湯舟に入ったら
出ようとしてくれない
ものすごく体力のある女性です。
私たちスタッフでさえも
ケガをさせないように安全に
お風呂に入れるのは 大変なのです。

それなのに…
おじいちゃん…
自宅でお風呂に入れるなんて、
どうして?
何年もやっていなかったことを、
急にどうして?

2人してお風呂場で
共倒れするかもしれないのに!
………どうして?どうして?

スタッフからの報告を聞いた時
驚きと共に 「どうして??」
で頭がいっぱいになりました。


でもおじいちゃんは、
そのあと スタッフに こう言ったそうです。

「 昨日は 私の体調がすごく良くてね。
今日なら ○子を風呂に入れてやることが
出来ると思ったんですよ。
私が風呂に入れてやれるのは
もう、これが最後です…」

そう言ったおじいちゃんの顔が
本当に晴れ晴れとしていて
やり切った感にあふれていたと
スタッフが言うので…
わたしはもう…なにも
言えなくなってしまいました。


ふたりが無事でよかった。

おじいちゃんの気持ちが
満たされてよかった。

おばあちゃんが今日も
ニコニコしていて本当によかった。


たくさんあった「どうして」は
たくさんの「よかった」に形を変えた
出来ごとでした (*´∀`)